お化け屋敷を開催してから次々と起こる心霊現象
第拾玖話 写真に残してはいけない人形

体験者:ご来場のK様

お化け屋敷の内部には、数体の“患者”を模した人形が置かれている。傷だらけの手足や、薄いシーツから覗く影。どれも製作者の学生たちが丁寧に作り込んだものだが、来場者の中には「本物じゃないか」と疑う人も少なくない。

その中でも一体、妙に“生気”があるとスタッフの間で噂されている人形がある。

ご来場のK様が気になったのも、その人形だった。
薄暗い照明の中での人形は、顔が隠れているのに、なぜか視線を感じる。
一緒に入った友人たちは一瞥して通り過ぎたが、K様だけは足を止めてしまった。

「リアルだな……」

そうつぶやきながらも、その場では特に何も起こらなかった。

本当に“事件”が起きたのは、帰り際だった。

出口を出たグループの中で、K様だけが
「ちょっと忘れ物」と言って再び館内に戻った。

目的は忘れ物ではなかった。
あの人形を写真に収めておきたかったのだ。

携帯を構えると、暗い部屋の中でその人形の輪郭だけが白く浮かび上がった。
スマホのシャッター音が、小さく響く。

カシャ…

その一枚をグループLINEに送信した直後。
K様の身体に、違和感が走った。

その夜。
自宅に戻ると、急激な悪寒と共に40度近い高熱に襲われた。
全身が震え、歯の根が合わない。
布団にもぐっても震えは止まらず、汗だけが滲む。

明け方になってようやく熱が引いたが、
驚くほど布団はびっしょりと濡れていたという。

翌朝、同行した友人たちは誰も体調を崩していなかった。
写真を撮ったのも、触れたのも、K様だけだった。

「ただの偶然……だと思いたいんですけどね」

K様は笑って言ったが、その笑みに少しだけ影が落ちていた。

――では、K様が撮ったあの“人形”は、どれだったのか?

ここでは言えない。
ただひとつ確かなのは、
血の糸では人形の写真撮影は、おすすめできないということです。